注:知人である竜次氏から頂いたテキストを、そのまま掲載しています。
第一印象は「(風神録の長野ローカルに続いて)今度は茨城ローカル?」というもの。土蜘蛛と言えば(畿内でもネタはあるが)常陸風土記。そして敵対的な星(星神)ということで茨城ローカルと感じた(ただし、実際は鹿島神宮ネタ以外は畿内のネタの方であったのだが)。
西の異界との塞ノ神(異界接合点守護神)である宇佐の話が永夜抄で行われており、そして東北の塞ノ神である諏訪が風神録で行われ、緋想天では博麗神社に要石が埋め込まれて博麗神社の鹿島神宮(鹿島・香取神宮は東の異界との塞ノ神となっている)化がなされており、本作でもエンディングで博麗神社を「東の境」と鹿島神宮相当とする記述が見える。一般的な「東の外れ」ではなく、極めて限定された「東の境」という表現を使っている以上、意味を見出すに足ると考えられる。
博麗神社が鹿島神宮であれば、博麗霊夢は武甕槌(鹿島神宮祭神)の役割を持つ、少なくとも中臣氏(藤原氏)(鹿島神宮氏子)の役割を持つと看做すことが出来る。
このように霊夢=武甕槌として、今回の地底制圧行は八咫烏がボスであっても、八咫烏が登場した神武東征ではなく、天孫降臨、所謂国譲り神話における武甕槌による豊葦原中国(以下「中つ国」と表記)平定と捉えた。
しかし、改めて検討すると、確かに武甕槌による中つ国平定の要素も見受けられるが、より素直に根の国往還神話……伊弉諾のそれではなく大己貴(大国主)のそれの方が展開として近いようである。
そこでゲームディスク内のオマケテキスト(以下「オマケテキスト」と表記)を確認すると、基本は中つ国平定のようである。考えてみれば、霊夢が妖怪退治を生業とする巫女である以上仕方の無いことか。
とはいえ、地底行というストーリー展開と相俟って、根の国神話を持ち出した方が良い部分もあるので、中つ国平定を主、根の国神話を従としての混交展開と見る。
先に根の国神話から見ていく。
さて、今回の舞台となる地底は黄泉の国として始まっているが、実態は根の国。根の国は常世(彼の世)の国であり、状況によって黄泉と同一になったり、竜宮と同一になったりするが、今回、本作を解釈する上では竜宮説をとしては黄泉の国が仏教系の(花映塚の)地獄が出来たことで役割を終え、根の国になったと見る。特に地上と同様に天候がある(街では雪が降っていた云々の台詞)ことから、根の国であると見る事が出来る。
霊夢=武甕槌は、建御名方=神奈子と関わりも神話になぞらえて解釈できる。この場合、建御名方は封印蟄居ではなく対蝦夷のために武甕槌と共に東方防衛の要として封任(柵封)されたとする説を採る。諏訪大社を東北の塞ノ神として捉える場合、この説に則る事になる。風神録でも山の麓と上とで共存協力体制を取ったため、この説に即していると見て良いだろう。
尤も、塞ノ神を意識しなくとも、元々建御名方は根の国の主たる素盞嗚の子孫(なお、黄泉の国の主は伊弉冉)、そして根の国を往還した大己貴の子だから、それだけで根の国との繋がりを持っている。
ラスボスの霊烏路を地霊殿=根の国の最深部で不正規の太陽神と捉えると、根の国の主にして太陽神格を持つとの説もある素盞嗚となぞらえることも出来る。しかし、地霊殿の主はさとりであり、さとり=素盞嗚として根の国神話としてみる場合、素盞嗚の課した試練が霊烏路打倒と見るべきであろう。
中つ国平定で捉えようとすると、この場だけを見るとさとり=大己貴(大国主)、霊烏路=建御名方となり、建御名方そのものである神奈子から力を貰っているのでそれはそれでアリかもしれないが、そうすると、火焔猫=事代主となり、それでは怨霊を送り出していた事の説明がつかなくなるので、この配役は却下。別の役を充てる。
根の国神話をなぞったとするならば、中つ国を制圧するに足る根の国の宝(イジメられっ子だった大国主が大己貴として兄弟神全てを打倒する力)、つまり、核の力を霊夢は入手したと言えるのだろうか。安定化した霊烏路は博麗神社に遊びにくるようになったが、中つ国=幻想郷を制圧可能にする力をを霊夢は入手したとは言い難いような気がするし、オマケテキストを見ても、入手していないようである。
嫁取りについては、エンディングで紫が霊夢に火焔猫を飼うように勧めているので、これがそうだろう。さとりのペット=素盞嗚の娘、ということで火焔猫=須世理姫。ただし、須世理姫の嫉妬深さは、橋姫という嫉妬深い女神と合わせてパルスィに持っていかれたようだが。
続けて、根の国神話では追えなかった部分について、中つ国平定神話で見て行く。
霊烏路は八咫烏を取り込んではいるが、八咫烏を倒すという神話は読んだ記憶が無い。そこで八咫烏から焦点を外し、霊烏路に仮託された神を探してみる、太陽の力、国津神(神奈子)の影響、天神への叛心、その叛心の動物による間接的な伝達、これらの要素から、天国玉神火の子、天若日子の話が出て来る。天若日子もやってる事はお馬鹿だし、日の字を持っている(彦ではなく日子と当てられる)し、豊穣神・太陽神格を持つとの説もあるし、大己貴から下照姫という地下を照らすと解釈可能な字面の姫を嫁に貰っている(神奈子=建御名方(大己貴の子)から核の力=下照姫を貰って一緒になっている)。
霊烏路=天若日子が寝返っために、ついに霊夢=武甕槌が(この場合高天原=幻想郷、中つ国=地霊殿=根の国と1階層低くなっているが)平定に遣わされると解釈すると、冒頭で触れた武甕槌の中つ国神話に適合する。
霊烏路=天若日子と置くと、火焔猫については、雉鳴女……天若日子の寝返りを伝達した動物神の配役になる。猫じゃなくて雉だったり若日子に殺されたりするが、そこは嫉妬心の抜けた須世理姫との二重配役ということで見逃す。
星熊に関しては、土蜘蛛(土蜘蛛と言えば常陸風土記)で茨城を意識した所での星、武甕槌=霊夢と戦った星神ということで天香香背男(甕星香香背男)こと天津甕星の要素を見い出せる。
実際にはスペルカードが示す通り大江山の酒呑童子であり、ついでに土蜘蛛も茨城産ではなく源頼光物語のものであり、そしてその方が本作の展開には合っている(酒呑童子退治の一行に討たれる、疫病の能力を持つ)のだが、常陸風土記の土蜘蛛とも合わせる事でのまつわろぬ神/民として神話に集約することが出来るようになる。
ここで、既に伊吹山の酒呑童子・萃香がいるので、大江山の星熊については、萃香との区別の為に酒呑童子ではなく、大江山の古い伝承にある表記に従って酒天童子と書くと、天を冠する先住神として再び天津甕星との接点が出来る。
星熊の本作中での役割については、天の使い(霊夢)を彼岸と此岸を結ぶ橋で迎えて案内する、という猿田彦となる。
そこで猿田彦の要素として、天孫出迎え後に猿田彦が住んだとされる伊勢の五十鈴川に注目すると、伊勢神宮の宇治橋が連想される。天孫出迎えでは橋の途中での遭遇であったが、橋を宇治橋の仮託とみれば、出迎えたのではなく純粋にそこに居る……神域と俗世の如く根の国と幻想郷を分ける橋を渡ったところに居たために霊夢と出会ったと見る事が出来る。
熊の字についても案内役→八咫烏→熊野との繋がりで、鬼であることを含めて関連性を引き出すことも出来るし、甕星の甕から鬼への関連性についても引き出せるが、いい加減長いので割愛する。
天津甕星について1つだけ補足しておくと、武甕槌配下の建葉槌に討たれ、巌(いわお)へと変化して大甕神社の礎石となっており、星の名を持っていながら地下へ繋がる要素を持っている。
基本は大江山の酒天童子、霊夢=武甕槌との絡みで天津甕星、作中の役割から猿田彦、この3つの混合と考えると星熊のデザインに合うと思う。基本形は鬼。星のマークは甕星の名から。赤い一本角のは猿田彦の特徴の赤ら顔と長っ鼻から、という形である。
事件の発端である、神奈子が核の力を霊烏路に与えた理由はオマケテキストにあるが、事件の影響を妄想してみるのも面白い。
深刻に妄想すると、霊夢の地霊殿平定を武甕槌の中つ国平定となぞらえた場合に生じる、階層のズレ……博麗神社=鹿島神宮がある幻想郷が中つ国(豊葦原中国)となるが、本作で霊夢=武甕槌が平定したのは地下。平定した地霊殿が中つ国に相当することになる、というズレに着目してみる。
このズレを意図的に引き起こし、中つ国の所在不確定化が神奈子の狙いだったのではないか、というのが予想の1つ。
緋想天において紫は博麗神社への要石設置=鹿島神宮化を実力で阻止しようとしている。その一方で、本作では会話より要石が設置されたルートを辿ったことになっている。そして紫は今回の神奈子の行動は無視して、地上へ怨霊を送り出していた火焔猫についてのみエンディングで触れている。紫に協力していた萃香にしてもまた同じ。
なので、神奈子がやったことは幻想郷に取って有益、少なくとも無害と思われる。
と、すると、幻想郷=中つ国の図式に疑義が生じる今回の行動は、幻想郷を守る、と言うことになる可能性がある。中つ国が安定したら天孫=緋想天の天子たちのものになる可能性も考えられるのだから。万が一現在の幻想郷が中つ国=人の世=俗世として幻想郷でなくなったとしても、この根の国が新たな幻想郷になる可能性がある。神社安泰を狙う神奈子と幻想郷の安定は統合で結べるものである。
気楽に想像すると、黄泉の国を天孫=武甕槌によって平定=浄化することにより根の国と確定させて、素盞嗚の系譜の神としての影響領域(=信者)を増やすために神奈子が動いたのではないか、というもの。営業の一環を信者獲得と素直に捉え、それに少しだけ妄想を加えたもの。
天孫の行先案内である八咫烏を根の国の最深部に置いてきて、武甕槌=霊夢が根の国、を平定するという考えも出来る。この場合、幻想郷にとっては少なくとも無害である……火焔猫が怨霊を送り出すと言う迷惑行為さえしなければ。
オマケテキストを見ると、霊烏路安定後は地霊殿と幻想郷の往来が始まっており、信者獲得可能領域は広まったと言えるだろう。
オマケテキストを見ながら斜めに妄想すると、年末という季節設定と霊魂(怨霊)がからむのに幽々子が動かない(幽々子が出てくれば、幽々子は毎回事件全容を語ってくれているのだが)と言う点より、単に年の瀬の煤払い(核融合炉の煤であり、その煤は怨霊だったりするのだが)をさせただけ、ということになる。
常世=常夜説およびオマケテキスト(「地霊殿で蓋してからは暗く寂しくなった」)により暗いので、鳥目のため明りが欲しかった霊烏路と、火山活動の低下で地熱が低すぎて蛙が冬眠して蛙狩神事(諏訪大社の冬の神事の一つ)に支障が出そうな神奈子の利害が一致したため、神奈子は核の力を渡したものの予想外に不安定化したため、河童(にとり)を経由して霊夢たちを仕向けて冬至に合わせて太陽殺しをして、ついでに年末の煤払いをさせただけ、というもの。営業の一環は蛙狩神事と地底の烏達の信徒化両方に掛かる。
この妄想を持ちつつオマケテキストのにとりの項を眺めていると、蛙狩神事で狩られるのは、融合炉を唯一知らされていた河童たちのような気がするのだが、多分気の所為であろう。狩られたらそのままミサイルの弾頭に仕込まれて天子か輝夜あたりに目掛けて発射されそうな気がするのだが、多分考えすぎなのだろう。妖怪弾頭に核の力をプラスした超妖怪弾頭とはとんだダーティボムだなとか、にとりとニトロは似ているから爆発力は凄いかもしれないとか、多分妄想過多なのだろう。